No.24

  2008年
  1月 ×日(
          
都内に行ったので、赤坂御所隣の豊川稲荷にお参りしてきました。年初は私用でいそがしく今まで初詣の機会を逸してしまいましたので、1月中旬にもなってしまいましたが、これが今年の初詣。
今まで初詣といえば神社やお寺がほとんどでお稲荷さんははじめてですが、密教の影響を受けているのかいろいろな神様をところ狭しとばかりおまつりしていて非常に興味深いところでした。
なかでも
「融通金」をいただける神様がまつられていてびっくり!これは神様がお参りした人に授けるもので、従来のお賽銭を納めるだけの習慣とは異なるユニークな発想で、「融通金」をいただいたら翌年は返礼金としてお返しするしきたりとか。
ちなみにこの「融通金」つねにお財布に入れておくべしとの但し書きがあります。う〜ん、さすがお稲荷さん!



ところで意外と若い子の参拝が多いのは、
歌の神様も祭られているかららしい。最近はジャニーズ事務所所属の歌手がこぞってお参りするみたい。そういえば芸能人の記念樹が境内にいくつもありましたね。
一方、この近所の年配の方々は事前に油揚げとおもちを用意して熱心にお参りしていました。都会の近代的なビルに囲まれているにもかかわらず、このエリアには神様が宿っているんだなあ〜、と実感!
  1月 ×日(           私が毎年正月に必ず読み返す本があります。その名は「聖の青春」。将棋界の最高峰A級に在籍しながら、病のため名人位まで達することが出来ずに亡くなられた不遇の棋士(村山聖9段、享年29)の話です。言葉にすると月並みな表現にしかなりませんが、命の大切さ、命の重さ、運命への慟哭、人生のはかなさ等をしみじみと感じさせてくれる一冊です。
数年前にマスコミにも取り上げられてご存知の方も多いと思いますが、この本には何回読み返しても心に響くものがあります。年間の自殺者が3万人超という現代においてこそ多くの方に読んでいただきたい、なんて思うのは私のお節介でしょうか。
  1月 ×日(           <毒のお話 その@>

夜遅い時間に急患で日本猫のミー太(6歳)がやってきた。飼い主さん曰く、「夜10時過ぎに帰宅したら
ミー太がヨダレをたらしてコタツのわきでひっくり返っていた!」とのこと。来院時すでに神経症状(眼球しんとう等)を呈してしていたので中毒を疑ってお話を伺ったところ、観賞用の植物(折鶴ラン)の葉っぱが部屋中に散らばっていて、どうやらこれを食べたらしい。

かつて都内の動物病院に勤務していた頃、これと全く同じ症例-
"折鶴ランの摂取による中毒"-を2度ほど経験した事がありますが、ふしぎなことに毒性学や中毒学のテキストをみても折鶴ラン単独では記載がありません。もっとも、"ランの仲間にはアルカロイド(植物に含まれるアルカリ性の薬理活性物質)を含むものもあるので留意せよ"、との注意書きはありますが・・・。ちなみに最も有名なアルカロイドといえば、コカインモルヒネといったところでしょうか。

ところでその後ミー太は難なく回復して無事退院出来ましたが、猫はなぜかツンツンした葉っぱを食べる習性があるので、とくに猫を飼われている方はご注意あそばせ!!
  1月 ×日(           <毒のお話 そのA>

今世間を騒がせている物騒な
毒入りギョーザ報道。有機リン系農薬メタミドホスに加え、今度はジクロルボスも検出されたとか。このジクロルボスはかつて米国では経済性を重視するあまり豚や馬の寄生虫感染駆虫薬として使われていた経緯がありますが、さすがに最近はより安全性の高い薬が出て使用は限局的みたい。獣医学領域ではよく知られた薬ですが・・・。

一方、米国製の
犬用ノミとり首輪にはいまでもおそらくジクロルボスが忌避剤・殺虫剤として使われています。最近でもホームセンターの安売ペットコーナーなどでナントカカラー(?)と称して売られてるのを見かけましたが、今はどうなんでしょ?こわいな。

もっとも私たち日本国内の獣医師がこのようなノミとり首輪をとり扱う事はありませんのでご安心を!動物病院での仕事はなにをさておき安全第一ですから。
  2月 ×日(           <毒のお話 そのB 蛇足ながら・・>

世の中は不思議なものでいわゆる”毒”を専門に開発・研究している機関もあるようで、昨年英国で毒殺された亡命ロシア人、リトビネンコ氏の暗殺には
ポロニウム210という放射性物質が使われたとか。このポロニウム210、放射能はウランの百億倍、1gで数十万人を死に至らせるという過激な物質。さすがにここまでくると精製には莫大な資金と大規模な原子力施設が必要で、これがロシア政府(=秘密警察のFSBやKGB)の暗殺関与を裏付ける根拠と英国政府は発言しています。

ところでこんな危険な物質ですが、
人工衛星の電源には不可欠なものらしく、少量ながら今でも世界各国で生産が続けられているようです。もっともその85%はロシアで作られて世界各国、主に米国に輸出されているとか。毒にもれっきとした使い道があるというlことでしょうか。
  2月 3日(大           新しい慢性心不全の治療薬に関する発売記念セミナーが開催されたので、三田の笹川記念館まで行ってきました。関東一円が記録的大雪に見舞われたにもかかわらず、会場は立見が出るほどの大盛況。高齢犬の増加に伴って、慢性心不全を患うワンコたちも増えていることの証左でしょうか。

企業の主宰するセミナーはあまり出席しないワタシですが、薬剤への興味もさることながら、この日のセミナーの演者が大学時代仲の良かった同級生(=上地先生、現在日大の若手ナンバーワン教授)ということもあって興味津々。
がんばれ上地先生!!

ところでこの薬剤、犬用製剤での認可・発売こそ初めてですが、以前から人体用医薬品についてはすでにその有効性が知られており、個人的には人体用医薬品を飼い主さんの承諾を得て心不全のワンコにも適用していたのでなじみのある薬でした。ただし、それでも大規模な犬の臨床試験で得られた貴重な薬理学的ノウハウが公開されるセミナーは有意義なもの。この薬の出現によって今後数年のうちに愛犬たちの平均寿命が4〜5年は延びるのではないでしょうか。いいことだワン!

  2月 ×日(           ひょんなことから、久しぶりに吉○家で牛丼を食べました。とても美味しかったのですが、食の安全性が揺らいでいる現在、”米国産の牛肉””中国産の紅しょうが”の取り合わせが多少不安をかきたてます。

なにかあったらどっちも怖いけど、あえてどちらが怖いかといえば、私は
農薬汚染よりもBSE感染牛(=狂牛病)のほうがダンゼン怖いなア、・・・と思います。農薬中毒くらいであれば助かるすべはいくらもあるけど、BSE牛食べてプリオン病(=変異型CJD)を発病したら大変。



ところでプリオン病の一種であるBSEは最近でこそマスコミ等であまり取り上げられなくなっていますが、政府の疫学調査(国内全頭検査)で毎年BSE陽性牛が数頭確認されています。国産牛でもこの状況なのに、米国産輸入牛肉は本当に大丈夫なの?なによりプリオン病については未だに判らない事が多すぎるだけに(この点はプリオン病の権威プルジナー博士も認めるところ)、不安要素は尽きないのだ。
  2月 ×日(           究極の獣医療出現!

獣医療を管轄する農水省は、今月2日までに人間ではがんの早期発見の有効な手段になっている
陽電子放射断層撮影装置(通称PET)による核医学診断機器を、犬と猫にも実施可能にする方針を決めたそうです。これによって今年の5月までに必要な放射性医薬品(核トレーサー)が使えるよう法律の改正(獣医療法施行規則)もなされるもよう。

人間同様に愛する動物たちにも最高の医療を受けさせたいという国民の要望が背景にあるとはいえ、さすがにここまでくると
”究極の獣医療”といった感じです。この業界にどっぷり漬かっている私ですが、この知らせには心底ビックリ!(@_@;)

さらに国内の医療機器専門業者にいわせると、現段階でPET購入に前向きな動物病院が結構あるようで、今後はそれ相応の需要が見込めるという。もっとビックリ!(@_@;)
  2月 ×日(           究極の獣医師養成?

報道によれば、農水省は今後獣医師のさらなる質の向上を目指して、2009年の獣医師国家試験から従来の学術試験とあわせて、
倫理面を問う問題50問を追加設定するとか。
獣医師としての倫理観を、それもマークシートの試験で問うとは、大丈夫かニッポン?妙な世の中ですナア・・・。
  2月 ×日(           K先生講演の”内分泌疾患に関する最新の知見”を求めて、今日は信濃町まで行ってきました。今回講師のK先生は大学に在籍する獣医師ではなく、現在奈良県内で開業する現役の臨床家。とはいえ、そのスジでは圧倒的に有名な医師です。大学卒業以来今日までさまざまな機会にさまざまな先生の講義を受講させていただきましたが、臨床の現場で対応されている先生の話には専門分野にかかわらず本当に得るものがあると実感。それだけに講義のあとの質疑応答も白熱した議論の応報で、雪の中わざわざ軽井沢から新宿まで出かけていくだけの価値ある内容でした。

学会帰りの道すがら、久しぶりに
「エチオピア高田馬場店」でスパイスのきいた野菜カレーを食べました。カレーの専門店だけにさすがおいしい!本当においしい!カレー大好きな私ですが、個人的な好みでいえば、

1位=デリー(東京ミッドナイト)ひたすら美味しい!
2位=ジャイプール(上田市)ナンが極うま、感動!
3位=エチオピア、スパイスが効いて最高!


といったところでしょうか。2位と3位は味の面ではほぼ同格ですが、エチオピアは高田馬場店も御茶ノ水店も駐車場がないのでやや評価落ち。ちなみにデリーとジャイプールでは3〜4人のインド人コックが腕を振るっています。病院の仕事に縛られてなかなか遠出は難しいけど、せめてジャイプールくらいにはまた行きたいなあ〜。
  3月 ×日(           きょうは三毛ネコのニャンタロウ(♂、2歳、去勢済)が爪の除去手術にやってきた。いたずらが過ぎてカーテンや高級家具をメタメタにしてしまい、当初は猫爪カバー(=樹脂製のネイルカバー)で対応していたものの、ここにきて同居猫2匹にも爪を立ててケガをさせてしまったので、いよいよ飼い主さんも決断を迫られたようです。日本ではなじみの薄い猫の爪除去手術はマイナーサージェリーのなかでもさらにマイナーであり、年間でも数えるほどしかありません。個体差はありますがレーザーを用いて丁寧に止血をしつつ慎重に切除すると痛みも少なく、手術翌日からほとんど普通の生活が可能です。
聞くところによると、米国ではこの爪の除去手術は典型的なメジャーサージェリーであり、なんと避妊・去勢・爪切除の3部作だけで成り立つ病院もあるとか。驚きです。
  4月 ×日(           今日は日本小動物がんセンター病院のセンター長である小林先生の講演を聴講するため、新宿まで行ってきました。小林先生といえばオンコロジー(獣医腫瘍学)の米国専門医、先生いわく近年の統計では犬猫ともに死因のトップはガンであり、特に犬の場合その半数近く(=47%)をガン関連死が占めるという。ちなみに猫では32%に達するとか。
いずれにせよ、ガン治療は私たちのような臨床家にとっては今後ますます避けて通ることのできない深刻な問題。

ところで私たちが汎用する抗がん剤の一種に、サイクロフォスファミドというお薬があります。臨床の現場で絶大な信頼を得ているお薬ですが、このお薬の前駆物質メクロレミタン(現在発売中止)開発には歴史があり、元来化学兵器として有名な
マスタードガスから化学的に誘導されたもの(薬理学的にはナイトロジェンマスタードという一群に分類されます)。‘毒をもって毒を制する‘という化学療法剤の作用機序を見事なまでに体現しています。
毒と薬は紙一重なんですね。
  6月 ×日(           獣医眼科学の世界的権威、Drウィルキー(オハイオ州立大学)の講演を聴きに行ってきました。2日間連続の講演なので、会場のすぐ隣の京王プラザホテルに宿泊。期待通りの、それも非常に濃い内容だけに講演1日目が終った段階で、すでに結構疲れました。でも明日は明日でさらに濃密な講義になるでしょうから、できるだけ体力を回復せねば・・・。

というわけで、夕食は知る人ぞ知る
中目黒のジンギスカン料理の名店「鉄玄 滋養堂」へGO!仕事に拘束されて、あまり病院から遠くに離れることができないので、外でジンギスカンを食べるなんて、ホント何年ぶりだろうか、15年ぶり?・・・感激!!!。
  6月 ×日(           獣医眼科学講義の2日目。
講義の内容もさることながら、質疑応答の時間が大変面白い。いわゆる
「裏ワザ・裏話」がわんさか出てくるのである。

眼科に限らず現在診療で用いられる医薬品はそのほとんどが基本的に定められたガイドラインにしたがって適正使用されます。いわゆるエビデンス(=医学的根拠)に基づく使用です。
その一方で、適用外使用されるものもわずか存在しており、本来の使用方法を医師の裁量で変更して処方されます。

このような場合はもちろん飼い主さんの十分な了解なり合意を得た上での投薬になりますが、内容が内容だけに学術論文やテキストに載ることはまずありません。ところがこの手の処方が非常に効果をあげたとなると、学会や講習会の中で誰言うともなく「内輪の話・ここだけの話」として話題になるのです。

この「適用外使用」、ちょっとイリーガルな響きからとにかくネガティブにとらえられがちですが、薬剤の化学構造や性質を考えると医学的に理にかなっているものが多く、けっしてバクチではありません。個人的には「示唆に富む内容も多く無視できない」と感じています。

ところでこの適用外の使用に際しては、やはりというか当然と考えるべきか民族性が顕著に現れるようで、その頻度から
欧州>米国>日本の順になるという。日本人獣医師はヨーロッパ各国の獣医師に比べるとかなり慎重とか。治療の難しい疾患に対し積極的にトライしてなんとか治してあげたいと思う一方で、今の世の中リスクの高い医療行為には手を出しにくい・・・そんな複雑な本音が透けて見えた気がしました。
  6月 ×日(           朝から続けて2頭、異物摂取で腹膜炎の一歩手前のわんこがやってきた。最初のワンコは球状のプラスチック樹脂性異物が十二指腸下部にて閉塞を起こし、次のワンコはサランラップがヒモ上に撚れて糸状異物になって空腸がアコーデオンのヒダ状に変位。やばいな、こりゃ。状況が状況だけに2頭とも早々に手術になりましたが、この手の手術がいちばんキツイ。

避妊や去勢のように全身状態が良好でなおかつ完全に手術手技が定まっていれば安全性も高く安心できますが、一方今回のようなケースでは、事前のレントゲン検査などで一応お腹の中の状態は分かっていても、予想外の事態(=穿孔による腹膜炎や捻転・重積の併発)が発生している事があります。それでも獣医師である以上、「予想外の事態」にも「想定の範囲内」として対応せねばならず、麻酔の導入から手術終了に至るまで一秒たりとも気が抜けません。特に消化管の縫合はわずかな漏れも許されませんから、仕事の後は
精魂尽き果てるといった感じになります。(>_<)

ところでそれなりの注意と時間を要する消化管の縫合を一瞬(
わずか1秒!)にしておこなう医療器具があります。一般に”ステプラー”と呼ばれるもので要は”医師向け消化管専用ホチキス”です。モノがモノだけに本体もタマも非常に高額。もちろんヒト用でツールマニアの私も2種類持っていますが、なにせ大きい、大きすぎなんです。大型犬にはなんとか使用できても、中型犬・小型犬にはまず大きすぎて使用不可能。
だれか小型犬にも使えるようなモノを開発してくれないかなア・・・。そうなれば消化器外科が少しはラクになるんだけど・・・。